誘拐・拉致は弱者の戦略

昨日から聖なる断食月が始まった。未明、スッタフたちのざわめき、そしてマイクで流されているアザーン(礼拝への呼びかけ)を聞きながら起き出し、用意された食事を摂り終って、そのまま事務所へ出て来た。  再びベッドへ戻れば、朝一番にある打ち合わせをミスしそうな気がしたからだ。サマータイムは2ヶ月間も延長だし、断食初めの2~3日は身心の調子がつかみ難い。
断食月には争いごとを避け、心静かに暮らさねばならないのに、心静かには程遠い気分で迎えた初日だった。まったく良い歳をしながら我ながら情けない。

新聞では、相も変わらず北西辺境州の各地で戦闘が激しい。断食月間中はパキスタン軍による戦闘を停止すると政府は表明しており、武装勢力側もその旨を歓迎していると伝えられてはいるが、心静かに送るはずの断食月間でも、近年は争いごとが減らない。交通事故も断食月間が最多だという。 政府軍の兵士にしても、断食月間くらいは落ち着いていたいだろうが、なかなか事情が許さないようだ。もちろんテロの可能性も排除は出来ないし、誘拐もあり得るというところだろう。

アフガンで伊藤さんが拉致、殺害された直後の先月末には、アフガンに近いディールで中国人のエンジニア2人が運転手、ボディガードと共に誘拐されていた。断食月を前にの駆け込み「誘拐」というところであったろうか…  タリバーンのスポークスマンによれば、「パキスタン政府の利益につながるものを破壊すること。パキスタン政府による同グループへの攻撃を中止させること」と報道。さらには、「パキスタン政府が人質解放のための条件を飲めば、全員を速やかに解放する」と伝えている。

外国人の誘拐はローリスク、ハイリターンの戦略であることを、タリバーン武装勢力は熟知している。自爆テロと共に、弱い者が持つ究極の戦略といえる。  タリバーン武装勢力とはなんの関係もない一般市民であっても、多国籍軍NATOによる誤爆やオペレーションで家族や親しい者を亡くすと、恨みのあまり武装勢力に身を投じる。恨まなかったら人間ではない。 多国籍軍NATO軍、パキスタン軍による連日の「テロ掃討オペレーション」は、それを強行するたびに、反政府武装勢力の人員も増やして行くことになる悪循環を含んでいる。

こうした反政府勢力による痛ましい誘拐や殺害事件、「伊藤さんの死を無駄にしないためにもアフガンやパキスタン、似たような環境で働くすべての人間や組織に与えた教訓を正しく受け止め、対処して行くことでしか伊藤さんの死に報いることが出来ない」と言う知り合いの言葉は重い。オバハンも重々、気をつけなくっちゃ…